トラウマから抜け出せず、何十年たっても苦しんでいる人々を何人も知っています。つらい経験を処理しきれず、記憶が未消化のまま潜在意識に沈殿しているのです。ヴェディック心理学の観点からDr.サトヤナラヤナ・ダーサは秀逸な回答をしています。

【質問】

 

私は正看護師として12年勤務していて、長いこと病人、重体の患者、終末期の子どもの手当を担当してきました。私が関わったケースには非常に深刻なものもあり、そのせいで私は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を発症するようになってしまいました。現在はホスピスで小児患者のケアのコーディネーターをしています。前述の症状があるため、正看護師として臨床の業務を続けることができなくなったからです。若年あるいは小児患者の対応をするたびに、不安から頻脈(心拍数の増加)と胸の痛みの症状があらわれます。最低一日一回は小児科の外傷治療を担当していたときの記憶がよみがえります。頭の中で何度も追体験してしまうのです。不安があったり、昔の出来事を思い出すのはとても嫌なもので、強い不安と極度の疲労から、何年か前には年齢を問わずすべての患者と直接関わる業務をいったん停止せざるを得なくなりました。頭にこびりついて離れない出来事はもう十年以上前に起こったことです。不安を引き起こす、トラウマと結びついた感情を記憶から切り離し、過去のものとするにはどうしたらよいでしょうか。

 

【Dr.サトヤナラヤナ・ダーサの答え】

 

心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えている人の多くが、恐ろしい記憶や非常に痛ましい感情を何度も繰り返し追体験し、それに圧倒されてしまうと訴えます。そしてドラッグやアルコールといった不健康な方法でそうした症状を麻痺させようとしてしまうことがよくあります。あなたがそのような道に陥らず、自ら管理系の仕事にシフトするという健康的な選択をし、助けを求めたのはとても良いことです。癒しへの第一歩は、まず自分の心のなかで実際に何が起きているのかを理解し、物事を明確にすることです。どのようにして脳裏に焼きついて離れない記憶をつくりだしているのか、そしてなぜそうなるのか。それがわかれば症状をコントロールするためのステップをふむことができ、あなたはもはや無力な犠牲者ではなくなるのです。

 

ジヴァ・ヴェディック心理学では、問題の根本原因に目を向けます。あなたのケースの根本原因は、トラウマ体験そのものではなく、体験がどのように処理されたかということにあります。問題の根本原因は、次々と起きる子どもたちの死をあなたが体験したことにあるのではありません。周囲に多かれ少なかれ影響を与える出来事ではあるものの、あくまで「外側」で起きていることです。例えば、ホスピスで死にゆく子どもたちに接しているスタッフの全てがPTSDになるわけではありません。彼らの違いは何でしょうか?PTSDになる人がいる一方、ならない人もいるのはなぜでしょうか?問題の根っこにあるのは、私たちのブッディ(知性)に関わることです。知性といっても、いわゆる「お勉強ができる」的なものを指しているのではありません。ヴェーダ的な定義では、知性とは感情をうまく消化する能力のことです。

 

自分の身に起こる出来事を感情的に「消化」できないと、それは処理されないまま無意識に残り、消化されるまで絶え間なくその人を悩ませます。これが私たちの抱える問題の根本原因、つまりチッタ(無意識)に存在している未消化の記憶です。過去の記憶はサムスカーラといい、私たちの日々の思考・感情・行動の根源となる非常に強力なものです。実際、私たちが反応するのは、いま起こっていることに対してだけではありません。それは10%程度で、90%は過去のサムスカーラが引き起こしているのです。正しく消化されなかった古い記憶がたびたびやってきては、注意を引こうと叫びだすのです。

 

ご質問に対しもう少し具体的に説明するとこうなります。あなたがホスピスで子どもを見ると、あなたの知性(ブッディ)は自動的に無意識(チッタ)の中で「検索」を始め、似たような記憶を探そうとします。あなたが現在見ているものと、以前に経験したものとを照合するのです。あなたはホスピス勤務で長いあいだ子どもたちに接してきたため、当然ながらあなたの無意識の中にはそうした子どもたちとの記憶の膨大なファイルができあがっていて、それらへのアクセスは容易です。あなたの知性は簡単かつ素早くそれらのファイルを見つけ、無意識から引っぱり出してきます。これら一連の作業は一秒もしないうちに行われます。ファイルがあがってくると、これまでに亡くなった人たち、あなたが助けられなかった命、看取ることができなかった命に関するあらゆる未消化の記憶が感情となって一気に噴き出してくるのです。

 

「記憶ファイル」には画像も含まれるので、それらがパッと頭に浮かぶこともあるでしょう。音、におい、感触など、記憶に関わる知覚も同様によみがえります。子どもの最後の言葉を聞いたような感じがしたり、顔がちらついたり、あるいは子どもの小さな冷たい手の感触を繰り返し思い出したかもしれません。さらに過去の悲しい思い出や、愛する人・近親者と死に別れたときの記憶などが、看護師をしていたとき何かのきっかけで呼び起こされるようなこともあったかもしれません。このように、すでに存在していた深い悲しみに関わる感情が、子どもが亡くなるたびに強化されていったと考えられます。ですからPTSDの症状があらわれる際にどっとやってくる痛ましい感情の中には、亡くなった小児患者だけでなく、それ以前にあなたが失った大切な人に関するものも含まれているわけです。心をこのように理解すると、あなたが感情と記憶の洪水で圧倒されて不安や胸の痛みを感じてしまうのは不思議なことではありません。

 

【実践的エクササイズ】

 

PTSDに対処するには、つらい記憶を消化することがカギとなります。起きた時点で対処するのはつらすぎたけれど、今になってあなたの注意を引いている出来事の記憶です。そうした苦しみを癒すことは簡単なプロセスではありませんし、以下に紹介するような一つのエクササイズで十分だということもないのですが、まずはスタート地点に立つことです。セラピストなどプロの手を借り、記憶の消化により心の平和が得られるようエクササイズを行ってください。

 

まず、自分の記憶と向き合う時間をつくります。この痛みの感情を伴う作業を行う日を決め、開始時間と終了時間もきちんと設定しておきます。人が死んでいく記憶と向き合うのはあまりにつらいことだと思う人もいるかもしれません。そのため、開始時刻と終了時刻をきちんと決めるというアプローチは、感情が制御不能になりがちな状況でコントロール感をあなたに与えてくれます。

 

次に自分のヒーリング・ワークのための聖なる場所をつくります。キャンドルに火を灯し、やわらかいブランケットなどで身を包みます。シュリ・クリシュナとつながるようイメージし、マハーマントラを詠唱します。クリシュナがあなたのそばにいることを感じてください。自分の心と向き合う機会を得られたことをクリシュナに感謝してください。

 

あなたを苦しめ続ける記憶の一つを書いてください。感情的にとても重い記憶を選びます。その記憶について書くとき、詳しければ詳しいほどよいので、詳細を全て書いてください。書き終わったら読み返して、感情を表す語を丸で囲ってください。例えば「落胆した」「悲しかった」「怒った」「怖かった」「罪悪感を感じた」「無力感を感じた」など。

 

あなたの感情について詳しく書いてください。それらの感情があるとき、どんな感じがするでしょうか?前のステップで感情を表す語を書いていなかった場合、前のステップに戻って感情を表す語をストーリーの中に加えます。そしてそれらの感情について詳しく書きます。感情は抑圧されがちなため、あなたが感情に対し注意を払えば払うほど効果的です。長いこと感情は隅に押しやられていたので、表出させるのは容易なことではありません。傷つくとわかっているところに誰も積極的に行きたくはありません。これはまるで歯医者へ行き、麻酔なしに歯を抜いてもらうようなものです。しかし苦痛からの解放には、つらい記憶と向き合うことが必要です。私たちはよく「感じることで癒される」と言います。長年抑圧されてきた感情を受け入れ、存在を認め、そして感じるために、泣いたり叫んだり、あなたにとって必要なことをしてください。

 

次にあなたのブッディ(知性)を使って、心の中で何が起きているかについてあなたが理解したことを紙に書きます。症状があらわれたときにいつでも読めるよう、その紙を携帯しましょう。自分に優しく、そして自分自身を支えてください。「深呼吸し、あなたがいま思い出しているのはただの記憶で、現在起きていることではないと知りなさい。それらの記憶にはあなたが過去に消化できなかった感情が詰まっているけれど、いまは処理をしている最中で、あなたは癒されつつある。不安のもとになっているのは子どもの物質的な体であり、それは一時的なもの。永遠の魂ではない。だから現在に戻って、いま、ここにあるものと共にいなさい。クリシュナがあなたと共にいます。過去は過去、もう過ぎ去ったもの。これからはもう、私は過去の記憶に悩まされない」のような感じで書いてください。

 

PTSDに苦しむ多くの人が、不安をとりあえず軽減させるのにエッセンシャルオイルを利用するのが有効だとしています。ラベンダーやローズのエッセンシャルオイルを試してみてもよいかもしれません。手のひらに数滴オイルをたらし、その手を鼻へ持っていきます。目を閉じて3回深呼吸をし、エッセンシャルオイルの香りを吸い込みます。マハーマントラを心の中で唱え、マインドフルネスを実行してください。不安の存在しない「いま、ここ」に自分を置きます。不安は過去の記憶からやってくるだけのものにすぎません。不安の症状が和らぐまで、深呼吸とチャンティングを必要なだけ繰り返してください。