アーユルヴェーダにおいては、健康を維持するために最も大切なことは食事だとされています。食べ物といっても幅が広いので、食べ物の味と感情の間に興味深い関係があることに焦点を絞りたいと思います。

口で感じる食べ物の味は6種類

アーユルヴェーダは、口で感じる味は6種類あると考えています。わざわざ「口で感じる味」と言うのは、「食べ物が消化されたあとに体内で感じる味」という概念もあるからです。これはややこしいので今回は脇において、「口で感じる味」に絞ることにします。

アーユルヴェーダの食事に関するルールで最も基本的なことは、毎回の食事に六味を入れるということです。六味を摂ればドーシャのバランスを崩さないと言われています。この場合のバランスとは、3つのドーシャ(ヴァータ、ピッタ、カファ)のレベルが均一になることではなく、あなたが生まれたときに決定づけられたドーシャレベルが維持されるという意味です。六味とは甘味、酸味、塩味、辛味、苦味、渋味のこと。バランスのよい食事をすれば六味はとれます。なぜ一食に六味を摂るべきかというと、味とドーシャは関係しているからです。

 

甘味:ヴァータ↓ ピッタ↓ カファ↑

酸味:ヴァータ↓ ピッタ↑ カファ↑

塩味:ヴァータ↓ ピッタ↑ カファ↑

辛味:ヴァータ↑ ピッタ↑ カファ↓

苦味:ヴァータ↑ ピッタ↓ カファ↓

渋味:ヴァータ↑ ピッタ↓ カファ↓

 

上の表の上向きの矢印(↑)はドーシャのバランスを崩すことを示しています。下向きの矢印(↓)はドーシャのバランスをとることを示しています。たとえば、酸味の物を好んで過剰に食べたり飲んだりすると、ピッタが増悪します。甘味の物を好んで過剰に食べたり飲んだりするとカファが増悪します。

味と感情は関係している

さらに驚くべきと言うべきか、当然と言うべきか、アーユルヴェーダでは味と感情は関係しているとされています。六味と感情の間にどんな関係があるのでしょうか。

■甘味

甘味の食品として真っ先に挙げられるのは砂糖ですね。それからお米、小麦粉、はちみつ、熟したバナナ、ごま、デーツ、アーモンド、牛乳なども甘味です。小麦粉と砂糖とクリームからできたケーキを食べると、ほとんどの人は幸せな気分になるし、満足感を感じます。甘味は幸福感や満足感と関係しているとアーユルヴェーダは言います。これを現代風に分析してみましょう。上に挙げた食品群はトリプトファンというアミノ酸をたくさん含んでいます。トリプトファンは幸福ホルモンの一つであるセロトニンの原料です。ケーキを食べると幸せを感じるのは、セロトニンが脳から分泌されるからかもしれません。パスタを食べると満足感が大きいのもセロトニンのせいかも。オイルも甘味です。だから脂を使ったジャンキーな食べ物やトンカツや揚げ物は幸せ感や満足感を与えてくれるのです。オイリーな食べ物は、もう一つの幸福ホルモンであるエンドルフィンを分泌させるからです。

であるなら、人生をハッピーにするためには砂糖や小麦粉や油をたくさん摂ったほうがいいのでしょうか。そうは問屋が卸しません。砂糖は血糖値を急激に上げるので心を不安定にします。アーユルヴェーダ的に言うと、砂糖は短期的には心をラジャシックにし、長期的にはタマシックにすると言われています。小麦粉はグルテン不耐性やリーキーガットをもたらす可能性があります。質の悪い油はダートゥを傷つける可能性があります。さらに、甘味を摂りすぎると幸福感や満足感を通り越して愛着心や執着心が強まると言われています。愛着・執着はヴェーダ哲学でいうところの「6つの敵」の一つです。愛着・執着を避けて心をハッピーにしたいなら、ご飯とお味噌汁のほうがいいです。大豆は甘味ではないけれどトリプトファンが含まれています。

■酸味

酸味の食べ物の代表格は酢、レモン、グレープフルーツ、ヨーグルトなどです。クランベリーも酸っぱいです。私は酸味が苦手です。いま時のトマトはかなり糖度が高いですが、私にとってはかなり酸っぱい食べ物です。積極的に食べるのはレモンだけです。酸味の食べ過ぎは羨望、いらつき、悲観という感情を刺激します。酸味の摂りすぎは肝臓にマイナスの影響を与えます。肝臓はイライラや「どうぜダメ」という悲壮感に関係しています。私は酸っぱい物をあまり食べないせいか、イライラはあまり感じないほうだと思います。こうした感情はピッタの増悪と関係しています。酸っぱい物を食べすぎると、ピッタが増悪します。ピッタゾーンには肝臓があります。ピッタが増悪して肝臓の機能が低下すると、全身の栄養状態が悪化し、脳への栄養供給が低下したり、毒素が蔓延します。その結果、ストレス耐性が低下し、ちょっとしたことに対してイライラしやすくなります。イライラしやすい人、なにごとにも悲観的になる人は酸味を摂りすぎていないか食事を見直してみるといいでしょう。

■塩味

塩味の摂りすぎは貪欲、自己憐憫、頑迷という感情に関係しています。貪欲はヴェーダ哲学の「6つの敵」の一つですから取り除きたい感情です。頑迷とは頑固で考え方が柔軟さを欠いていること。自己憐憫とは「私ってなんて不幸な人だろう」とか「私ほど不幸な人はいない」と思う気持ちです。自分を憐れむという感情ですね。私がアーユルヴェディック・カウンセリングで面接した人のなかにもこういうクライアントがいました。幼児期に親から暴力を受けたというトラウマから「私はなんて不幸なのだろう」という自己憐憫から抜けられず、いろいろな内臓不調を持っている人でした。この人は「私は昔、親からいじめられて、とてもかわいそうなの。私を見て!私のことだけを見て!」という感情を払拭できないのです。塩味の摂りすぎがもたらす貪欲、自己憐憫、頑迷は、すべて行きつくところは執着です。こういった感情を持っている人は塩を摂りすげていないか見直すといいでしょう。実際、この女性は高血圧とそれに伴う網膜剥離を抱えていました。

■辛味

辛味ほど得意不得意の個人差が大きい味はないように思います。激辛でも平気な人もいれば、少し辛味があるだけで鼻の頭に汗をかく人もいます。私はショウガの辛さは好きですが、トウガラシの辛さは苦手です。料理にはトウガラシをまったく使いません。以前、一緒にお蕎麦屋に行った会社の同僚が、お蕎麦のどんぶりの表面を一味唐辛子で真っ赤に埋め尽くしているのを見たときには目がテンになりました。そのころ会社の仕事がきつく、この人は月100時間くらい時間外労働をしていたので、怒りが蓄積していたのかもしれません。辛味は嫌悪、怒り、恨みといった感情と関係しています。辛味は体のピッタを高め、心のラジャスを増やします。嫌悪、怒り、恨みの感情はピッタとラジャスに関係しています。夏に暴動が起きやすいのは、太陽の熱でピッタとラジャスが増えることで、憎悪、怒り、恨みといった感情が高まるからでしょう。夏のギラギラした太陽の下でタバスコ入りの食べ物を食べたら血が燃えたぎり、それまで抑えていた怒りが放出するのかもしれません。アーユルヴェーダでは、憎悪や怒りは肺の中間部にダメージを与えると考えられています。鬱屈した怒りをもっている人が咳をしているシーンをテレビドラマなどで見かけることがありますが、辛いものを食べて怒りを最大限に高めているのかもしれませんね。

■苦味

日本人はわりと苦味が好きですね。ほとんどの野菜は苦味をもっています。野菜のなかの苦味の王者はゴーヤでしょうか。苦味はカファを減らし、血液を浄化してくれます。日本人は民族的にカファ体質だと言われているので、苦味が合っているのかもしれません。春の山菜は苦味が強いのは、冬の間に蓄積したカファや毒素をとってくれるためです。自然の恵みです。冬眠から覚めたクマは真っ先に苦い物を食べるのだそうです。デトックスです。ですが、苦味を摂りすぎると、悲しみ、悲嘆、絶望といったマイナスの感情につながります。アーユルヴェーダでは、苦味も心のラジャスを増やすと言われています。ラジャスが増えたときに怒りにつながるのではなく、悲しみにつながるのが苦味です。「悲しみは苦い」と表現されますね。苦味は余分な脂肪をとってくれるメリットがあることを知った人が、痩せる目的でレタスやセロリなど苦味の野菜ばかりの食生活を長期間にわたって続けていると、やがて悲しみに襲われるかもしれません。甘味のご飯を少量でいいので食べて心に潤いを与えましょう。

■渋味

渋味が味であるかどうかは議論の分かれるところですが、アーユルヴェーダでは味として考えられています。普段の食事で渋味をあまり意識しないと思いますが、柿は渋味です。りんごも渋味です。もちろん甘味も含まれていますよ。熟していないバナナも渋味です。紅茶、日本茶、カテキン茶、赤ワインも渋味です。渋味は苦味と同様に余分な水分や脂肪を取り除いてくれるのですが、筋肉や内臓を収斂・収縮させるという特徴をもっています。とくに結腸を収縮させるので、渋味の摂り過ぎは便秘を起こす可能性があります。これは苦味成分のタンニンのせいです。渋味食品の摂り過ぎには気をつけてください。筋肉や内臓を収縮させるせいか、感情的には恐怖心や不安感を引き起こします。筋肉や内臓が硬く縮むと、心もリラックスできないのは当然です。タンニンは鉄と結びつきやすいので、鉄の吸収を阻害します。鉄分が不足すると、憂うつな気分、神経過敏、のどがつまる感じがする、といった障害が起きます。アーユルヴェーダが渋味は恐怖心や不安感につながると言っている科学的根拠はこのあたりにあるのかもしれません。さらに、渋味は克己心を強めるとされています。克己心とは「自己コントロール」のことです。渋味を食べるとなぜ自己コントロールができるのでしょうか。ドクター・パルタップに理由を聞いてみると「渋味は美味しくない。それを食べるということは自己鍛錬になる」という答えがきました。えっ?! 意外な答えでした。